人獣共通感染症連続講座(山内一也)(第103回) 2000.8.24

カリフォルニアに出現した新しい出血熱ウイルス

齧歯類は数多くのウイルスの自然宿主となっており、そのうちのあるものはヒト で致死的感染を起こします。その代表的なものとして、マストミス(多乳房ネズ ミ)を自然宿主とするアレナウイルス科のラッサウイルス、シカネズミなどを自 然宿主とするブニヤウイルス科のシンノンブレウイルスがあります。ラッサウイ ルスによるラッサ熱は西アフリカの風土病として毎年数多くの感染者を出して います。 一方、シンノンブレウイルスによるハンタウイルス肺症候群はアメリカ 大陸での風土病として、米国ではこれまでに250名を越す患者が出ています。 ところで、1999年6月から2000年5月にかけて、米国カリフォルニア州で死 亡した出血熱の患者が、新しいアレナウイルスの感染によるものであったこと が最近明らかになりました。エマージングウイルスがひとつ加わったわけです。 その経緯はProMEDでとりあげられてきましたが、まとまった成績がCDCの罹 患率・死亡率週報(Morbidity and Mortality Weekly Report) Vol. 49, No.31 (Aug. 11, 2000)とサイエンスVol. 289, 842 (Aug. 11, 2000)に発表されました。 それをもとに、この新しいアレナウイルス感染をご紹介します。 ホワイトウオーター・アロヨ(Whitewater Arroyo: WWA)ウイルスによる致死的 出血熱患者は14才、30才、52才の3名ですべて女性です。2名は南カリフォ ルニアに住み、1名はサンフランシスコ湾地域に住んでいました。3名の間に 共通点はなく、また発病前4週間、カリフォルニア州の外に旅行に出たことは ありません。 症状は発熱、頭痛、筋肉痛を伴った、内臓出血、肝臓障害という出血熱に特 徴的なもので、3名とも発病後1−8週間で死亡しました(1999年6月に52 才の患者、2000年4月に14才の患者、2000年6月に30才の患者)。3名 すべてにアレナウイルスに特異的なRNAが検出され、さらに14才の患者か らはウイルスも分離されました。ウイルスの配列はWWAウイルスと87%の相 同性があり、おそらくこのウイルス感染による出血熱と診断されたのです。 WWAウイルスは1995年米国ニューメキシコ州でノドジロウッドラット (White- throated wood rat, Neotoma albigula)から分離されたもので、これまでヒトで 病気を起こした例はありませんでした。 アレナウイルス科のウイルスはいずれもネズミに共生するもので、感染した ネズミは無症状のまま尿、唾液などにウイルスを放出しています。ウイルスに 汚染したほこりなどを吸入することでヒトは感染します。おそらく、今回のカ リフォルニアの例も同様と推測されています。 WWAウイルスの宿主であるノドジロウッドラットは米国西部のすくなくとも6つ の州に生息しています。CDCはハンタウイルス肺症候群の場合と同様に、食 べ物はネズミが入り込まない容器にいれること、ネズミに汚染した場所を清 掃すること、長い間使用しなかった建物や部屋は新鮮な空気を入れてから 使用することといった、安全対策を勧告しています。 ラッサ熱の場合には抗生物質リバビリンが有効ですので、WWAウイルスで も効果があるかどうか検討中とのことです。 新大陸アレナウイルスと旧大陸アレナウイルス アレナウイルスはウイルス粒子中に砂粒のような構造が見えることから、ラ テン語で砂を意味するアレナの名前がつけられたものです。自然宿主のネ ズミ、それぞれの種類に固有のアレナウイルスがあり、新大陸アレナウイル ス(タカリベ複合群)と旧大陸アレナウイルス(LCM・ラッサ複合群)に大別さ れています。 新大陸アレナウイルスにはすくなくとも14種類があります。Junin(フニン)ウ イルス(アルゼンチン出血熱の原因)、Machupo(マチュポ)ウイルス(ボリビ ア出血熱の原因)、Guanarito(グアナリト)ウイルス(ベネズエラ出血熱の原 因)がもっとも代表的なもので、すべてレベル4ウイルスです。また、実験室 感染で問題になったことのあるSabia(サビア)ウイルス(ブラジルで分離)、 Tamiami(タミアミ)ウイルス(米国フロリダで分離)、Tacaribe(タカリベ)ウイ ルス(トリニダドで分離)が有名です。このほかAmapari、Flexal、Latina、 Oliveros、Paran、Pichinde、PriritalとWWAを合わせて14になります。 一方、旧大陸アレナウイルスとしては、ラッサウイルス、リンパ球性脈絡髄 膜炎(LCM)ウイルス、Ippy(イッピイ)ウイルス(中央アフリカで分離)、 Mopeia(モペイア)ウイルス(モザンビークで分離)、Mobala(モバラ)ウイル ス(中央アフリカで分離)の5つがあります。 日本にはLCMウイルスが存在します。これについては本講座第59回で取 り上げています。
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