人獣共通感染症連続講座(山内一也)(第115回) 2001.3.19

プリオン病の診断キットの開発競争

1.診断キット開発にかかわっている機関  前回(第 110 回)の講座では4社が開発したプリオン病の診断キットに ついて、ヨーロッパ委員会の評価結果をご紹介しました。これ以外にも多 くの企業が開発を行っています。以下はそれをアルファベット順にリストア ップしたものです。多くはウシ海綿状脳症(BSE)を対象としたものですが、 スクレイピーやクロイツフェルト・ヤコブ病を対象としたものも含まれていま す。 企業 Abbeymoy Ltd Altegen Inc Anonyx Inc Bayer Biolabs(現在はBenesis Bioventures), Bio-Rad Inc Boehringer-Ingelheim AG Caprion Pharmaceuticals Inc Celcus Inc Centre Suisse d'Electronique et de Microtechnique SA Niel Constantine Enfer Scientific Ltd Microsens Biophage Ltd Nen Life Science Products Inc Paradigm Genetics Inc Prion Developmental Laboratories Inc Prionics Proteome Sciences Ltd Q-One Biotech Ltd 大学・研究所 Commissariat a l'Energie Atomique(フランス原子力委員会) New York State Basic Research Institute for Neurological Disorders USDA(米国農務省)このほかにも多数あるようです。日本でもスクレ イピーについては帯広畜産大学、家畜衛生試験場などで検討されて います。 2.試験の内容 1)死後の試験 これまで、牛についてのBSEの検査は死後の脳の病変の検出という 病理組織検査に依存していました。しかし、前回の講座で述べたよう に、死亡した牛の脳についてヨーロッパではプリオニクス、エンファー、 フランス原子力委員会の生化学検査キットによる異常プリオン蛋白検 出が広く用いられるようになってきました。病理組織検査では対応で きるサンプル数が限られますが、生化学検査キットならば何十万とい うサンプルでも検査可能なため、BSE汚染の疑いのある欧州連合で は、広範囲の監視に利用されるようになると思います。 しかし、これまでのところ、どのキットが妥当か、欧州連合としての評 価は行っていません。前回ご紹介したヨーロッパ委員会の報告書で も、そこに述べられている見解は欧州連合の公式のものではないと 断り書きがあります。 BSEの検査キットは将来、莫大な利益が見込めるため、国際的な評 価はなかなか難しいのかもしれません。 BSEの検出には異常プリオン蛋白の検出のほかに、マウスの脳内接 種があります。この方が検出感度は高いのですが、マウスが発病す るまでの潜伏期が少なくとも1年間ですので、実用性はありません。 最近のネイチャー誌に、フランス原子力委員会グループは自分たち のキットはマウスのバイオアッセイに相当する高い検出感度であると 宣伝していました。 2)生前試験  Proteome Sciences, Beohringer-Ingleheim, Prion Developmental Laboratories, Paradigm Genetics, Nen Life Sciences, Abbeymoyな どで、いくつかの試験法が試みられていますが、バックグランドのノ イズが大きな問題のようです。  スクレイピーではリンパ組織に異常プリオン蛋白が潜伏期中に検 出されます。そこで、米国ワシントン州立大学と農務省USDAでは羊 の瞼の下(瞬膜)にある小さなリンパ節について、オランダのレリシュ タットLelystadtにある動物科学健康研究所DLO Institute for Animal Science and Healthでは扁桃について、潜伏期中の動物からの異常 プリオン蛋白の検出システムを開発しています。また、USDAの研究 所ではMary Jo Schmerrらが血液中の白血球からの検出を試みて います。  BSEの場合、実験感染牛では症状が出る6ヶ月前には脳に異常プ リオン蛋白が見つかっています。しかし、リンパ組織に異常プリオン 蛋白が検出されません。回腸に存在するリンパ組織であるパイエル 板には見つかる可能性がありますが、生前検査の材料にはなりえま せん。そのため、スクレイピーのようなリンパ節での生前診断は不可 能です。なお、不思議なことに羊にBSEを接種すると脾臓のようなリ ンパ組織にも異常プリオン蛋白が多量に検出されます。
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