人獣共通感染症連続講座(山内一也)(第162回) 2005.5.15

新刊書「ウイルスと人間」

表題の本をこの度、岩波書店から出版しましたので、その内容の紹介のた めに、まえがきと目次を転載します。 「まえがき」  ウイルスが発見されたのは十九世紀の終わりで、ウイルス学の歴史はち ょうど百年ということになる。私がウイルス研究の世界に入り込んだのは 五十年前で、ウイルス学が進展し始めた時期であった。そして、これまでに 動物実験を中心としたウイルス学研究から現在のウイルスの遺伝子操作 にいたるまで、ほとんどすべてのウイルス研究の段階を身近に経験するこ とができた。  振り返ってみると、ウイルスは当初から感染症の病原体という認識のも と、ワクチンによる急性ウイルス感染症の予防がウイルス学における重要 な課題としてとらえられてきた。その成果として天然痘根絶を初めとして、 狂犬病、麻疹、ポリオなど昔から人類を苦しめてきた危険なウイルス感染 症は制圧されてきた。一方で、野生動物から突然感染して社会に大きな 衝撃を与えるエマージングウイルスの問題が二十世紀終わり頃から注目 されるようになり、この十年ほどの間に危険な病原体としてのウイルスの 実態を紹介する書籍が相次いで出版された。私自身も、エマージングウイ ルスに関する一般向け解説書をいくつか出版した。  しかし、もっと広い視点から眺めると、ウイルスは生物の細胞に寄生する 生命体である。ヒトの遺伝子が三万くらいあるのに対して、ウイルスはその 百分の一以下の遺伝子を持っているにすぎない。それにもかかわらずウ イルスは、八個の遺伝子のみを持つインフルエンザウイルスがスペイン風 邪で数千万人の死亡を引き起こした例にみられるように、すさまじい力を 発揮することがある。三十億年前には地球上に出現していたと推測される ウイルスが、わずか二十万年前に出現した人類に対して、なぜこのような 影響を与えているのか。人類よりもはるかに長い歴史を持つウイルスの 生命体としての存在意義は何なのかという疑問が浮かんでくる。  このような問題を考えていた時に、岩波書店から科学ライブラリーに、こ れまでの私の解説書とは異なる切り口でウイルスについて書いて欲しいと の依頼を受けた。そこで、すぐに頭に浮かんだのは「ウイルスと人間」とい うテーマであった。とはいっても、これまでにこのテーマをまともに取り上げ たことはなかった。また、この視点で書かれている海外の書籍もみあたら なかった。先にテーマを決めたことが、私にとって新しい挑戦への出発点 になったのである。   本書では、ウイルスの病原体とは別の側面のいくつかの側面を紹介し たが、これらは、いまだに仮説の段階のものである。地球上でもっとも微 少な寄生生命体としてのウイルスの存在意義についての新しい視点が開 かれることを期待して、あえて私の個人的見解も付け加えてある。(以下、 省略) 「目次」 1.ウイルスの歴史は長く、人間の歴史は短い 2.進化の推進力となったウイルス 3.ウイルスはどのような「システム」か 4.ウイルスと生体のせめぎ合い 5.ウイルスに対抗する手段 6.現代社会が招くエマージングウイルス 7.エマージングウイルスの時代をどう生きるか 8.人間とウイルスの関係を考える
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